続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

志らくの言いたい放題 立川志らく

 

志らくの言いたい放題 (PHP文庫)

志らくの言いたい放題 (PHP文庫)

 

 「談志最高の名言が『人生成り行き』なのでございます」(著者)

 

ぼくが立川談志という孤高の落語家に遭遇したのはいつだったか。談志の鼠穴に震えた。それから、ぼくにとって落語とはすなわち「談志の落語」である。今のところあの衝撃を超える落語に、ぼくはまだ出会ってはいない。

 

さて、本書はその立川談志の弟子のひとり、立川志らくの一冊。この人は談志の思想や論理を深く継承している。落語のという芸は個人のものであり、個人の根底にあるものを抜きに語ることはできない。同じストーリーでも、噺家によって異なる印象を与えるのは、個々人のもつ思想や論理が噺に大きな影響を与えるからなのだ。

 

談志イズムに傾倒し、自ら談志原理主義者をなのる著者は、実に明確に、実に狂気的に談志を吸収しようとしている。ここに垣間見えるのは「師匠と弟子」のひとつの理想形だ。師弟関係はもはや古臭い制度なのかもしれない。だが、この制度を持ってしか受け継げないものもあると思う。著者の言葉を借りればそれは「価値観」というものだろう。

 

この本を、できれば中高生に読んで欲しい。「師匠を選ぶ」なんてのは古臭い考え方かもしれない。だが、形を変えながらも、実は人が学ぶことのできる対象は「人」か「事実」のどちらかしかない。どんな人間も生きる道を学ばなければならない。学ばなければ死あるのみだ。「事実」から学べる人間はごくわずかだ。天才と呼ばれる人たちだ。天才でなければ人に学ぶしかない。著者と談志の関係は、人から学ぶ一つの理想形である。未来ある若者は知って損はないだろう。