続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

三島由紀夫レター教室 三島由紀夫

 

三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)

三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)

 

 

世の中の人間は、みんな自分勝手の目的へ向かって邁進しており、他人に関心をもつのはよほど例外的だ、とわかったときに、はじめてあなたの書く手紙にはいきいきとした力がそなわり、人の心をゆすぶる手紙が書けるようになるのです。(作者)

 

5人の登場人物の手紙をそのまま提示することで物語を紡ぐ。手紙小説とでも分類すべきものなのか、ちらほらと見かける形式だ。個人的には「若きウェルテルの悩み」や「夜は短し歩けよ乙女」など好きなカテゴリの小説だと思う。

 

老若男女がそれぞれの思惑で、狭い社会を揺れ動く。そのさまが手紙のやりとりだけでよくわかる。またそれぞれのキャラクターを手紙の文章で表現していくあたりに、作者の凄みを感じる。

 

この本は「レター教室」である。作者はまえがきで作中の手紙を自分が筆を執る際の参考にして欲しいと述べる。登場人物に老若男女を据えることで、幅広い読者の参考になるようにと作者が考えていることがわかる。この本をよむとき、読者は自分と自分に最も近い登場人物に自分を重ね合わせて読むのだろう。また、時を経ればこのこの本には新しい見え方がある一冊とも言えるはずだ。

 

文章や言葉は人の心に働きかける力を持つものだ。三島由紀夫はもちろんそれをよくわかっているのだろう。あとがきで作者は決まり文句の無難な手紙も良いが、人を惹きつけることこそ大切だと説く。それは、日本人からその力は失われつつあることを嘆いたからではないだろうか。だから、この一冊で日本に教室を開いたのだとぼくには思えた。