続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

宮本武蔵(四) 吉川英治

 

宮本武蔵〈4〉

宮本武蔵〈4〉

 

 武蔵は一歩退って、両手をあわせた。―しかし、その手は鰐口の綱へかけた手とは違っていた。

 

随分と間が空いてしまったが4巻を読破。吉岡一門を敵に回した武蔵に、清十郎の弟、伝七郎が果たし状を叩きつける。これを切り伏せ、ついに武蔵は吉岡一門全員と壮絶な決闘になだれ込んでいく。

 

印象的だったのは、武蔵が本阿弥光悦に誘われて遊郭で、女郎の吉野に諭されるシーンであろうか。張り詰めた糸のように自分を限界に追い込むだけでは、あまりに脆い。適度に遊びがあるからこそ、琵琶はいい音がするのだと吉野はいう。剣の道を歩むことに夢中で、他の道を顧みなかった武蔵にこれは大きな影響を与えたように思う。

 

上に引用したのは、その後吉岡勢との決闘に挑む直前、武蔵が八大神社で神に祈るシーンの最後のほうの一文だ。武蔵はその直前、無意識に神に頼ろうとした自分を恥じていた。さむらいの道を歩むなら他力を頼ることなどあってはならぬ。己の心の弱さを悔いていた。

 

しかし、一瞬、武蔵は思い直して手を合わせる。そうさせたのは、吉野の言葉ではなかっただろうか。