続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

パンドラの匣 太宰治

パンドラの匣 (新潮文庫)

パンドラの匣 (新潮文庫)

『かんにんね。』(竹さん)
『ひどいやつや。』(僕』

結核が死の病であった時代。結核療養所で死に怯えつつ生きる少年僕は、日々の出来事を綴り友人と文通する。書簡形式で綴るこの小説は、平易で読みやすく、それでいて恐ろしいほどに主人公僕の心を描き出す。太宰治の傑作である。

手紙形式の小説は多々あるが、こんなにも心滲み出る文章を描けるのは太宰治しか居ないだろう。時代の変化、恋心、死への恐怖、生への渇望。友人に当てた言葉の端々にこれらがにじみ出ている。結核患者を主役に持ってきたという設定がすこぶる生かして、人間というものを描き切る。日本文学ここにあり、という感じだ。