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続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

太宰治傑作選 奇想と微笑 森見登美彦編

本棚

奇想と微笑―太宰治傑作選 (光文社文庫)

奇想と微笑―太宰治傑作選 (光文社文庫)



「おい、へんな物がついてきたよ」(太宰治傑作)

人間は太宰治人間失格を読むことで2種類に分類される。「俺もダメな人間だ」と共感する者と「俺はこうはなるまい」と帯を締め直す者である。前者は太宰の作品に惹きつけられる。

ぼくがそうであるように、編者森見登美彦さんも「ダメな人間」を心に持つ人なのだろう。絶妙なチョイスで、読者を太宰ワールドに引き込んでくれる。それは静かで、淡々として、それでいてうっとうしいほどに純粋である。もしくは、それらを表面的に演じる卓越した表現力である。

森見登美彦による、他の短編集ではあまりお目にかかることのできない、ちょっとコアな、それでいて魅力溢れる太宰ワールドのチョイスは流石。巻末の編集後記と合わせて、自分の解釈と森見登美彦の解釈を比べるのも楽しい。

個人的には「畜犬談」がお気に入りだ。犬は嫌だ、犬は間抜けだ、犬は恐ろしいと散々悪口を言っておきながら、太宰はなんだかんだで犬の世話をしている。エサをやる、散歩にも行く。今風に言うならツンデレである。人間の闇を見つめることの多い太宰の作品の中で、妙に微笑ましい暖かさがある。もちろん闇も含まれている。絶妙な溶け込み方をした光と闇は陰陽図のようである。これはぼくにとっては新しい発見であった。