続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

チップス先生さようなら ヒルトン、菊池重三郎訳

チップス先生さようなら (新潮文庫)

チップス先生さようなら (新潮文庫)



「.....いけないんだ、……あーム……物事の重大さを、……あーム……その物音で判断してはな。ああ、絶対にいけないんだ」(チップス先生)


イギリス、ブルックフィールド中学校で長年教鞭をとり続けてきたチップス先生先生。晩年を迎え、彼の心に楽しかった思い出が去来する。

「古き良き先生」をイギリスのパブリックスクールを舞台に見事に描いた作品。なんてことのないストーリー。しかし、そのストーリーの中にはチップス先生と子供達の心の交流が描かれている。終盤に向かい一気に感動が高まる。ラスト6ページに震えた。

チップス先生は別に名先生というわけではない。古いやり方を頑固に保持し、改革を求める学校側からは邪険に扱われることもある。当然、教え子の成績が振るうわけもない。

しかし、ぼくは彼こそ素晴らしい先生だと思う。彼は学生たちを自分の子供のように愛していた。一人一人の個性をしっかりとらえ、それを馬鹿にするでも、褒め称えるでもなく、ありのままに受け入れた。子供達と一緒にお茶を飲み、馬鹿馬鹿話もする。洒落を飛ばし子供たちを笑わせる(晩年には名人と言われた)。

彼は子供達と心を通わせた。きっと彼の教え子は、チップス先生が亡くなられた時はみな一様に涙を流すことができるだろう。知識や技術を教える以上に大切なことは、心を通わせる経験であると思う。特に、大人と子供が、先生と学生が、立場や視点の違いを乗り越えて心を通わせる経験は貴重だ。子供達の成長に大きく関わるだろう。今の日本にも、こんな先生がいるのだろうか。