続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

双生児 江戸川乱歩

双生児 (角川ホラー文庫)

双生児 (角川ホラー文庫)


「喜びも、悲しみも、恨みも忘れてしまうことが早かった」(空気男)

表題作『双生児』はシンプルなネタだが、死刑囚の懺悔という形が底知れぬ雰囲気を醸し出している。このあたりの工夫が江戸川乱歩らしいところだろう。

個人的には中編『ぺてん師と空気男』が面白かった。ジョークと犯罪を題材にじわじわと染み込むような恐怖が迫る。虚ろな主人公空気男を通して追う物語は、何を信じていいのかわからない妙な不安感をぼくにもたらす。一方、着々とジョーク計画を進めるぺてん師は底が知れず恐ろしい。本当は何か狙いがあるのではないか、という人間の本能が刺激される。

江戸川乱歩の世界は、小説という虚構の中でさらに虚構を重ね続ける。結果として妙なリアリティと恐怖が生まれる。実に不思議な構造である。