続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

有頂天家族 森見登美彦

 

 

 

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

「面白きことは良きことなり!」(下鴨  矢三朗)
 
ふわふわ毛玉ファンタジーとも言うべき、独特のジャンルの小説。この世は人間、天狗、そして狸によって構成されている…のかもしれない。
 
物語の主役は狸一家である下鴨一家。彼らは強い家族の絆とそれぞれの特技をでもって、京都の街を奔走する。長男は真面目な政治家、次男は引きこもり、三男は遊び人、末っ子はまだまだ未熟で化けるのもおぼつかない。立派な父狸は狸鍋になってしまったが、彼ら兄弟は父親譲りの「阿呆の血」と我が子を愛する母の愛で強く結ばれている。ケンカもするが根っこのところで繋がっているのだ。
 
森見登美彦さん流のちょっとダメなキャラクターたちは今作でも実に微笑ましくおもしろい。力を失いプライドだけの天狗、天狗以上に力をつけた人間、狸を愛するが故に食おうとする人間。いろいろなキャラクターが複雑に絡まって動き出し、お話はどんどん加速していく。中には悪どいやるもいるが、それでもどこか抜けていて憎めない。この辺り、作者お得意の「腐れ学生」っぽさがいい感じだ。
 
特に印象的なのは狸たちが化けの皮を剥がれた瞬間だ。普段は人間に化け、人間社会に紛れて暮らす彼らは弱点を突かれるとぽろっと化けの皮が剥がれたもふもふの毛玉に戻ってしまう。元の姿に戻ると同時に彼らは力を失い綿ぼこりのように無力な存在になる。そんなわけで、狸たちが毛玉に戻るはたいてい大ピンチなのだが、なんだか妙に微笑ましく可愛らしい。毛玉ファンタジー恐るべしである。