陰陽師 対極ノ巻 夢枕獏
「今どこでどうしておられるのかわからないが、誰の上にもこの雪はそそいでいるのだろう」(源博雅)
7作目ともなると各短編の本題よりも、導入部分にある晴明と博雅の雑談のほうが魅力的に感じられてきた。酒を呑みつつ縁側で男2人がポツリポツリと思うままに話す。こんなことは現実ではありそうでない、実にファンタジックな出来事を描いているように感じる。
この導入部分は、たいてい博雅の感じる不思議に、晴明が「呪」による解説を行う。この2人の息は相変わらずピッタリだ。ホームズとワトソンのように見事なやりとりで読者を共感させてくれる。
このシリーズのタイトルが「陰陽師」であるのは、この2人のやりとりによるところが大きいのではないか。「安倍晴明」という人物を描くのではなく、「安倍晴明の陰陽師の面」を切り取って描写しているのだ。その切り取り役として、不思議を投げかける博雅が鍵を握るのだろう。