続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

陰陽師 夢枕獏

陰陽師(おんみょうじ) (文春文庫)

陰陽師(おんみょうじ) (文春文庫)

映画にもなった大人気シリーズの一作目。平安の陰陽師である安倍晴明とその友人源博雅が、百鬼蠢く都の闇のなかをゆく。

実に見事な情景描写に圧倒された。本当に琵琶が「嫋」と奏でられる音色が聴こえてくるかのようであった。平安の闇の静けさが、一見何もかもをぼかしてしまうようで、その実あらゆる感覚を鋭敏にさせるのだ。研ぎ澄まされた感覚が、本当に妖怪を見出してしまいそうになる。例えようのないリアリティがこの小説にはある。

加えて、主役二人の掛け合いが、実に心地いい。闇の中にあって軽妙な掛け合いが、ともすれば重くなりがちな作品のバランスを見事に調整している。まさに傑作というに相応しいと感じた。