続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

ハンニバル・ライジング

ハンニバル〈上〉 (新潮文庫)

ハンニバル〈上〉 (新潮文庫)

ハンニバル〈下〉 (新潮文庫)

ハンニバル〈下〉 (新潮文庫)

食わねえとな、生きちゃいけねぇんだよ <青目>
人を愛せるどんなものが、あなたのなかに残っているの? <紫夫人>

 いまさら知らない人はいないと思われるトマス・ハリスの傑作。「羊たちの沈黙」に始まりシリーズ全てが映画化されている。っていうかたった5作しかない著者の作品はすべて映画化されている。それだけ面白いのだ。

 とにかく驚かされるのは著者の知識の深さと幅広さだ。今作では源氏物語や俳句など、日本に関する知識もでてくる。とても外国人と思えないほど詳しい。もちろん日本のことだけでなく、医学や芸術、戦争のことや様々な歴史的背景など、著者の知識にはまったく底が見えない。そして、こういった知識はレクター博士をただの狂った殺人鬼ではなく、どこか神秘のベールに包まれた「怪物」として描くうえで最大限に生かされている。結果としてホラーでグロテスクなストーリーも、神秘のベールに包まれて独特の雰囲気を醸し出している。おかげでホラーはあまり感じない。むしろなんとなく綺麗な、洗練されたものを感じる。
 今作では、レクター博士の幼少期〜青年期が描かれ、「怪物誕生」の秘話が明かされる・・・ということなのだが、今作を読み終えてなお「怪物」の根っこのところには至れない気がする。類まれなる著者が生み出した類まれなる「怪物」は、なおも神秘のベールに包まれている。まだまだ著者も怪物も底が見えない。続編がでるなら是非読みたいと思う。