続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

ことわざ

 「犬も歩けば棒に当たる」ということわざはおもしろい。「犬がフラフラしていると、追い払われて棒で叩かれたりする。だから、人間も余計なことはするもんじゃない。」というのが本来の意味らしい。しかし、そこから転じて「とにかく動けばなにかがある。だから積極的に動くべきだ。」という風にも解釈されている。一つの言葉が真逆のニュアンスを持っているわけだ。しかも、たぶんどちらも正しい。


 2つの意味を合わせて考えると、「行動を起こせばなにかしらの反応がある。しかし、やたらと行動を起こせばよいというものではない。」という感じだろうか。少しだけ深い。しかし、ニュアンスとしてはどっち付かずで、ことわざとして残るほどインパクトがある感じではなくなってしまった。
ぼくがこのことわざに感じた「深み」は、その本来の意味とは別のところにあるようだ。おそらく「一つの言葉が真逆のニュアンスを持っている」という矛盾したところがおもしろいのだ。犬が歩くというなんでもない行動すら、全く逆の解釈が用意できる。ならば、人間が起こすありとあらゆる行動にはもっとたくさんの解釈があるべきなんだろう。普通に生活していると、どうしても視点が偏りがちになる。たまにはこのことわざを思い出して、色々な視点があることを思い出す必要があるのかもしれない。


 こんな感じでことわざはおもしろい。実に短い文句に凝縮されているけど、その中に普遍的な価値観が凝縮されている。人間の知恵が凝縮されている、という感じがする。そもそもことわざというのは、誰かが作ったわけではなく、日々の生活の中から自然発生的に生まれたものだ。多くの言葉の中でものごとの本質を鋭く穿ったものだけが、「ことわざ」として成立する。さらに、現在に残ることわざは時間の試練に耐え抜き、かつその過程で余計な部分をそぎ落とし、洗練されてきたものなのだ。もともとクオリティの高いものが、この過程を経てさらに完成度が高め、深みがでてくる。普段から必要なものではないが、困ったとき、迷ったときに、ことわざ辞典をめくってみるのはいいかもしれない。きっと先人の知恵がぼくらにヒントを与えてくれるはずだから。