続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

夏と花火と私の死体

健くんと弥生ちゃんにも、溝に隠された私の死体にも、そして夜の森で泣きながらわたしを探しているお母さんにも闇の帳は降りてくる


奇才乙一さんの最初の作品。ぼくが乙一さんの小説にはまったのはZOOからなんだけれど、ひとまずそれはおいといて最近読んだこの作品から。

まず驚くのはこの作品が発表されたのが乙一17歳のときであるということ。自分が17歳のときのことを考えるととてもこんなことを考えるような頭は持っていない。というか小説なんてかけやしない。しかも、この小説はなんとも不思議な独特の世界観を持っていて、他の小説とはなにか一線を画するものがあるのだ。すごい・・・としか言いようがない。そしてこの独特の乙一ワールドはなんとも不思議で、気持ちがいい。

物語は、語り手である「わたし」こと五月が死ぬことから動き出す。いきなり語り手が死ぬだけでも斬新なのに、死してなお語る。しかもこの語り手は幽霊とかそんなんじゃなくて、五月であって五月でないというかなんとも不可解な存在である。しかし、これがどうにもこの小説においては必然であるというか、しっくりくる。気持ちがいいぐらい納まりがいい。
そしてストーリーも乙一さん独特のホラー。のどかな日常とその影にある恐怖の描写が交差して不思議なドキドキ感を生み出す。これは単純な恐怖とかではないのだと思う。もっとなんというか原始的なところに響く感じなのだ。これがすごく気持ちがいい。
描写もすごく淡々としいて、下手な味付けはされていない。素材をそのままというか、すごくシンプルでキレイだ。無駄がない。たぶん、ぼくが一番好きなのはこのシンプルさ=美しさなんだと思う。最小限で最大限の効果をあげる、その美しさが乙一ワールドのよさなんだろう。

しかし、結局のところぼくにはうまい表現ができない。ただ思うのは読んだことがないひとは是非読んでみてほしい。なんとも不思議な乙一ワールドがきっと病みつきになるだろう。