続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

ダンケルク  クリストファー・ノーラン

 

「俺は生き残っただけだ」(帰還した兵士) 

「それで十分だよ」(毛布を渡すおじいさん)

 

時は第二次世界大戦。ドイツ軍はフランスへ侵攻。イギリス・フランス連合軍はドーバー海峡に面するフランスの小都市「ダンケルク」へ追い込まれていた。時の英国首相チャーチルは兵士40万人を救うべく、民間の船舶まで総動員する「ダイナモ作戦」を発動した。果たして連合軍兵士の運命や如何に。

 

この映画は戦争を舞台にした群像劇である。そして主人公が存在しない。数人の主要登場人物は出てくるが、彼らの名前を覚えるような機会はおそらくないだろう。登場人物たちは皆、立場や舞台は違えども名もなき一兵に過ぎない。

 

戦争をこんな風にとらえた映画は個人的には初めてでとても新鮮で強烈だった。戦争の中の英雄や困難に立ち向かう人々をスポットを当てることはせず、ただ淡々と普通の兵士を描く。それでも戦争という環境が十分にドラマを生み出す。それぐらい、戦争というのは今の時代に生きる人間からすれば非日常なのだ。そしてそのすべてが悲劇である。ノーラン監督のこの視点は斬新だと感じた。

 

全体を通してすさまじい緊張感が続く。BGMの随所に入るチクタク音が映像や脚本を盛り上げる。

 

もう一つ、この映画では敵であるドイツ兵がほぼ姿をみせない。これが緊張感や恐怖感をさらにあおる。敵の動きが全く見えない。敵の考えが全くわからない。戦局の不利な状況でこの状態は怖い。未知への恐怖がここにある。

ももこの21世紀日記 No. 1 さくらももこ

さくらももこの絵日記。かわいらしいイラストともにクスッと笑えるエピソードが盛りだくさん。1日1ページなので読みやすい。布団の中でポツポツ読んだ。なんとなく、良い夢が観れたような気がする。

贈る物語 Terror 宮部みゆき編

 

贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き (光文社文庫)

贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き (光文社文庫)

 

 心の外にあるものを欲しがると、怖い目にあうよ。(巻頭文)

 

古今東西のホラー小説を集めたアンソロジー。

 

編者、宮部みゆきがそれぞれの物語を紹介してくれる。短編映画を連続で、解説付きで観ているような楽しさがある。読書が苦手でも、宮部みゆきの口車(?)に乗せられて、ついつい読みたくなってしまう。

 

収録されているお話はじわじわとくる恐怖系のものが多い。この辺りは編者が女性だからだろうか。恐怖はその正体がわからないからこそ恐怖であるともいえる。恐怖の小体を模索して、アレコレと考えてみるのも楽しみ方の一つだろう。

 

個人的にはフィリップ・K・ディックの「変種第二号」が気にいった。SFとホラーとミステリを絶妙に配合した感じが良い。長めの話だがテンポが良く、ストーリーに引き込まれる。映画にしたらおもしろいと思うのだが、誰か作ってくれないだろうか。

 

もう一つ、デイヴィッド・マレルの「オレンジは苦悩、ブルーは狂気」もおもしろい。狂気の画家ファン・ドールン(明らかにファン・ゴッホがモデルである)の絵画を研究したものは、みんなドールンと同じく狂っていく。友の死を契機に、主人公もドールンの絵に魅せられていく。果たしてドールンの絵んい潜むものとは・・・。

 

どちらも最後には謎が解け、恐怖の正体がおおむね明らかになるものだった。ミステリ好きとしては、やはり投げっぱなしよりは解答を示してくれたほうがスッキリするのだ。ホラー小説の読み方ではないのだが。

告白 渚かなえ

 

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

 

 <i>ねえ、渡辺くん。これが本当の復習であり、あなたの更生の第一歩だとは思いませんか?(森口)</i>

 

我が子を亡くした中学校の女性教諭、森口は最後のホームルームで驚愕の告白をする。我が子を殺した犯人がこの教室にいるのだと。

 

語り手を変えながら全編モノローグで構成される共学のストーリー。最初はタイトルどおりそれぞれの『告白』だと思って読み進めていたが、後半になるにつれ少し違うと感じた。登場人物はみな自分が正しいと思っているというか、後悔していないわけではないが、自分を美化している感じがする。

 

告白と見せかけて、そこには虚実が入り混じり、全体を複雑にしている。それが著者の狙いであり、物語の厚みを作っているのだと思う。

 

誰しも主観というバイアスから逃れることは出来ない。それぞれの思い込みが、美化が、世の中を複雑にしていく。この作品はままならない世の中の縮図であるように感じた。

 

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第1章 三池崇史

杜王町、平凡な様で行方不明者が非常に多く不穏な空気が漂う町。昨日、杜王町へ引っ越してきた広瀬康一は、不思議な力(スタンド)を持つ少年、東方仗助と出会う。町では殺人鬼、アンジェロがスタンド能力に目覚め悪行の限りを尽くしていた。

前評判は最悪。公開されたら「意外と良い」との評価が見られるジョジョまさかの実写映画。これは自分の目で確かめるしかないと劇場へ足を運んだ。

結果としては、かもなく不可もなく。まぁ平凡な映画といったところだろうか。監督はよく頑張ってると思うけど、やはり漫画原作の実写映画化はなかなか厳しいものを感じる。

基本的には原作既読前提の映画だと思われる。スタンドの説明もざっくりだし、冒頭からピンクダークの少年をガッツリ出してくるなど、ある程度ジョジョという作品を知らなければ楽しめない。

肝心の「スタンド」だが個々のCGは非常によくできている。原作漫画そのままに3Dモデルが動くといっても良いだろう。問題は予算の都合なのか、今一つスタンドの出番がないところ。また、出番があっても「オラオララッシュ」などは動きが激しすぎてほとんど何をしているかわからない。どうも魅せ方が今一つ。

人間のほうも、コスプレにしか見えない衣装が辛い。いや、コスプレのほうがもっと上手に原作を再現してるんじゃあないだろうか。この辺は予告編でわかっていたからまぁなんとか飲み込めた。

ストーリーの改変は尺の都合があるので仕方ないだろう。ただ、ラストの改変はちょっとびっくりした。一応中ボスぐらいの位置付けの音石明はどうも出番がなさそうだ。第2章は結構独自路線で突っ走るのかもしれない。2作目のプロットがある程度まとまっているのか、とりあえず消化しておいたキャラも多い。彼らはきっと実写化されないのだろう。仕方ないのかもしれないが。

唯一評価できるのは、スペインでロケを行なったことだ。スペインの土地に日本の標識を立て、サラリーマン風の日本人を大量投入することで、あっという間に日本のようなものを作り上げた監督の発想はすごい。しかも、これが意外とジョジョっぽい(ジョジョ自体が洋画の影響をふんだんに受けているからだと思うけど)。

そんなわけで、良いとも悪いともいえない普通の映画にぼくのなかではなってしまった。続編を作る気まんまんの映画だし、続編こそ4部ラスボスが登場するはずなので見てみたいが、はたして実現するだろうか。また実現しても予算不足でこれ以上しょぼくなるとえらいことになる。この続編の監督は果たして誰になるのだろうか。

ブラック・ファイル 野心の代償 シンタロウ・シモカワ

製薬会社のCEO、アーサーはマスコミに叩かれまくっていた。臨床試験の結果を改竄し、その結果薬によって260名もの人々が死んだのだ。そしてついにはアーサーの愛人、エミリーが誘拐される事態に。場面は時をさかのぼり1週間前、弁護士のビルはとある筋からアーサー訴訟の証拠を入手するが…

あらすじをみてると法廷サスペンスっぽいが、実際にはもっとドロドロした人間模様が描かれる。全体的に落ち着いた雰囲気のBGMが続き、なかなかの緊張感だ。

アンソニー・ホプキンスアル・パチーノが脇を固めるというえ贅沢な映画。イ・ビョンホンも添えられている。さすがの演技で安心感があっていい。アル・パチーノのラストシーンはゴッドファーザーっぽくてーかっこいい。渋い。

監督が日系の人だからか、ラストは日本映画でありそうな終わり方。謎を残さない律儀な感じも日本映画っぽい。

派手さはないがジワジワくる。ハリウッドっぽくない映画でした。

ピエロがお前を嘲笑う バラン・ボー・オダー

影の薄い少年ベンヤミン、彼はコンピュータに精通し、ひょんなことからハッカー集団CLAYの一因となる。裏の世界で名前を上げていくCLAY。しかし、その進撃は長くは続かないかった。

映画はベンヤミンの出頭に始まり、彼がこれまでの経緯を話すことで進んでいく。最初は遊びのような感覚で始めたハッキング。いつしか事はだんだんと大きくなり、遂にはCLAYは破局を迎える。

印象的なのは、ダークネットと呼ばれるアングラなチャットでハッカー達がコミュニケーションしているシーン。狭い電車の車両の中で、仮面をつけたハッカー達が会話している。インターネットに存在する独特の世界観をうまく表せているのではないだろうか。顔が見えず公平なようでいて、なんとなく序列のある不思議な空間ができている。

ハッカー映画なので、コンピュータ上での戦いを想像するところだが、本作にはアクションシーンも盛りだくさん。なるほどハッキングというのはただコンピュータに強ければできるというものではないようだ。端末を探し、ネットワークを構築し、情報を奪い合う。意外と肉体派なところもあるのだ。現実にそうなのかは知らないけれど。

ラスト20分ほどは熱い展開が続く。しっかりとストーリを固めて練られた脚本に、ドイツ人の気質を感じる映画だ。ドイツ版、デスノートといったところだろうか。見応え十分な一作だった。