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続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

家守奇譚 梨木香歩

家守綺譚 (新潮文庫)

家守綺譚 (新潮文庫)

「こういう生活は----私の精神を養わない」(綿貫征四郎)

 亡き友人高堂の実家の家守を務めることになった売れない物書きの綿貫。緑しげる家で彼は不思議な経験をする。
 ゆったりとした時間の中で、人ならぬものとの交流を深めていく綿貫。静かで味わい深い生活がそこにある。
 売れない物書き青年が、天然自然の「気」と触れ合う物語。ふらりふらりと人間の世界とあちらの世界を行き来してしまう彼はなんとも不安定で儚げだ。物語全体にこの不安定な雰囲気があり、日常生活を描いているシーンですらなにやら独特の雰囲気が漂う。
 現代の世界は科学の時代だ。論理が全てに勝る。しかし、ひと昔前は違う世界もあったのだろう。それは妖精や妖怪などの人に在らざるものたちと共存する世界である。いわばイマジネーションの世界である。現代の論理はイマジネーションの世界を破壊して人間の世界を広げていく。しかし、全てを白日のもとに晒す必要があるだろうか。綿貫のように共存することも一つの道ではないだろうか。
 ところで、この主人公まるで少女漫画の登場人物のようで、どうも男の目線からすると「こんなやついねーよ」という感じが拭えない。逆に女の子からすると理想的な男の子の1つの像なのかもしれないのだが。また世界観と設定が漫画xxxHolicによく似ている。主人公も文字は違うがワタヌキだし。どちらかがどちらかにインスパイアされているのだろうか。

不道徳教育講座 三島由紀夫

理解されようと望むのは弱さです(著者)

名文家、三島由紀夫が説き伏せる「悪道のすすめ」。幅広い知識を持って、一流のウィットを効かせて、世の常識をくつがえす。何事も、逆説的に考えてみるものだ。意外と論は通ってしまう。その繰り返しの中で一体何が正しいのかわからなくなってくる。著者の文章はお酒のようだ。毒だが美味い。読み耽っているとクラクラしてしまう。

一体何が正しいのか。改めて問われるとぼくにもよくわからない。しかし、それが自然なのかもしれない。人間が作り上げた正義や悪はほんとうはないのだ。ただ人間がいるだけで、そんなルールはないのだ。正義や悪のもとに生きる生物があるだろうか?

ああ、どうやら酔ってしまっているようだ。少し酔いを覚まして眠ることにしよう。二日酔いでは生きていけない。

JOJO'S BIZZARE ADVENTURE OVER HEAVEN 西尾維新

「ディオ。何があっても気高く、誇り高く生きるによ。そうすればきっと、天国に行けるわ」(ディオの母)

集英社の企画で何作か続けざまに作られたジョジョのノベライズ本の1つ。

DIOの日記という形で、DIOから見た第三部が描かれる。承太郎が戦いにのちに燃やしたとされる、あの日記だ。最初は毛ほども気にしていなかったジョースターの末裔が、ジワジワと我が身に迫ってくる。DIOも「覚悟」を決めて戦いに臨む。

日記には現在のDIOの心境が描かれるだけではない。DIOが見出した「天国に行く方法」が語られる。その方法を「親愛なる友」に伝えるための日記でもあるのだ。加えて、DIOの過去についても語られる。その生い立ちを振り返り、DIOは何を思うのか。

本作はDIOから見たジョジョ第三部である。加えて、DIOの過去、現在、未来を描く物語でもある。これが成立するあたり、ジョジョは「ジョースター家の物語」だけではなく「DIOの物語」であると認めざるを得ない。いや、「ジョースター家とDIOの因縁」こそがジョジョ1-6部に貫かれる1つのテーマだった。それをよく反映したノベライズである。

作中には原作のDIOの発言などがちょくちょく引用される。これらを組み込みながら、違和感なく物語を成立させているあたり、著者のジョジョ好きが見て取れる。ジョジョファンなら十分に楽しめる1冊さろう。荒木飛呂彦による、イラスト挿絵もジョジョファンなら無視できないところだ。

月に囚われた男 ダンカン・ジョーンズ

「おれはプログラムじゃない」(サム)

2010年の低予算映画。これはもっと早く見るべきだった。
劇場で見なかったことが悔やまれる。

低予算でSFというのは敷居が高い。凝ったことはできないから、如何にして近未来のイメージを作るかが難しい。監督みごとにその辺をやりくりしたといえる。

まずメインのセットは簡素な月面基地に絞った。窓もないから宇宙空間を描く必要は殆どない映像の加工もシンプルで良い。演者もほぼ主演の1人芝居に絞った。スターの共演より、1人の味のある役者フル活用するほうがコスパが良い。同時にこれをやりきったサム・ロックウェルの評価もグングン上がる。
他の登場人物は簡素なロボットのガーディ。この簡素さも、うまく物語に生かされる。どうやら原作のないオリジナル映画らしい。この自由度の高さを活かし切った形といえよう。

トーリー自体は特筆するほどではないが、それを魅せるサム・ロックウェルの演技が良い。喜怒哀楽。芯に迫るものがある。相棒ロボット・ガーディも良い。彼はロボでありながら、まるで感情を持っているような言動を示す。機械のように扱われるサムと、機械でありながら心を宿すに至ったガーディ。この対比こそが見どころであり、本作をSFたらしめる要素であると思う。

あとは、本作に出てくる企業替が韓国企業であることが印象に残った。ひと昔前はこのポジションに日本が使われていたと思う。それはつまり、映画製作段階での各国企業の伸び代のイメージの反映であり、日本企業の伸び代のイメージが韓国企業に押されているということを意味する。本作の公開から7年、監督の目線はどうやら正しかったように思えてならない。

世間はやかん 立川談志

世間はやかん

世間はやかん

「やっぱりまだ、キリンの口ン中へ火炎放射器放り込んでみたりとか、なんかあるよ。俺だって、まだ」(立川談志)

落語「やかん」をモチーフに、家元が自由奔放に書き付ける一冊。そこそこ分厚いが、文字も大きいし行間も広いのでさらりと読める。内容も談志ファンなら何処かで読み聞きしたものが多い。全体的にモチベーションが低いときに書かれたらしく、いまひとつ爆発力のない一冊だった。

定価なら1500円。お高いなあ、と思っていると、帯に「談志の本買い?よした方がいいよ」(談志)とある。まぁ、そういう一冊なのだ。

変態仮面 アブノーマル・クライシス 福田雄一

『もう!なんなのよ、男って!』(愛子ちゃん)

まさかの変態仮面映画の続編。たぶん監督も2作目があると思っていなかっただろう。

前作の、そして原作のテイストはそのままに、本作はガンガンにハリウッド映画スパイダーマンの2をパロディしていく。大丈夫かと心配になるほどのパロディっぷり。前作より予算もあるようでCGなど(しょぼいけど)も盛りだくさん。

個人的にはすごくツボ。映画ってこれでいいんだよ。深いストーリーやメッセージはトップクラスの一部の作品が担えばいい。作り手も、観客ももっと映画そのものを楽しむべきだ。

この一作は多くの人間が楽しんだ作品だろう。女性はあまり気がすすまないかもしれない。でも、楽しめると僕は思う(デート中でなければ)(デートでは観ねえよ!)。

幽霊塔 江戸川乱歩

幽霊塔

幽霊塔

この世の中に、私ほど奇妙な、恐ろしい経験談を持っているものはあるまい(北川光雄)

江戸川乱歩の冒険小説。財宝とが眠ると噂される怪しい幽霊塔。時計塔には果たしてどんなカラクリが眠っているのか。謎を秘めた女、秋子は何者なのか。謎が謎を呼びまくる。強い意志をもつ主人公光雄は秋子に惹かれ、謎だらけの館に挑むことになるのであった。

江戸川乱歩らしいどろどろした雰囲気は残しつつ、子供にも楽しめる冒険譚。むしろ子供向け小説なので、小学生〜中学生のころに読みたかった。今よりもっとのめり込んで読めただろう。

なんといってもこの一冊には、宮崎駿監督が自身の思い出を漫画にしたものがついている。ルパン3世カリオストロの城の種はこの小説だったらしい。宮崎駿なりの小説の解釈や、映画づくりの姿勢が垣間見得て面白い。またこの幽霊塔はイギリスの小説が原作であるようだ。この辺りを通して宮崎駿なりの価値観も漫画の中に示されている。短い漫画だが本編に負けず劣らずの価値がある。