続: ぼくの一時保存

主に読書ブログ。たまに頭からはみ出したものをメモ。

月に囚われた男 ダンカン・ジョーンズ

「おれはプログラムじゃない」(サム)

2010年の低予算映画。これはもっと早く見るべきだった。
劇場で見なかったことが悔やまれる。

低予算でSFというのは敷居が高い。凝ったことはできないから、如何にして近未来のイメージを作るかが難しい。監督みごとにその辺をやりくりしたといえる。

まずメインのセットは簡素な月面基地に絞った。窓もないから宇宙空間を描く必要は殆どない映像の加工もシンプルで良い。演者もほぼ主演の1人芝居に絞った。スターの共演より、1人の味のある役者フル活用するほうがコスパが良い。同時にこれをやりきったサム・ロックウェルの評価もグングン上がる。
他の登場人物は簡素なロボットのガーディ。この簡素さも、うまく物語に生かされる。どうやら原作のないオリジナル映画らしい。この自由度の高さを活かし切った形といえよう。

トーリー自体は特筆するほどではないが、それを魅せるサム・ロックウェルの演技が良い。喜怒哀楽。芯に迫るものがある。相棒ロボット・ガーディも良い。彼はロボでありながら、まるで感情を持っているような言動を示す。機械のように扱われるサムと、機械でありながら心を宿すに至ったガーディ。この対比こそが見どころであり、本作をSFたらしめる要素であると思う。

あとは、本作に出てくる企業替が韓国企業であることが印象に残った。ひと昔前はこのポジションに日本が使われていたと思う。それはつまり、映画製作段階での各国企業の伸び代のイメージの反映であり、日本企業の伸び代のイメージが韓国企業に押されているということを意味する。本作の公開から7年、監督の目線はどうやら正しかったように思えてならない。

世間はやかん 立川談志

世間はやかん

世間はやかん

「やっぱりまだ、キリンの口ン中へ火炎放射器放り込んでみたりとか、なんかあるよ。俺だって、まだ」(立川談志)

落語「やかん」をモチーフに、家元が自由奔放に書き付ける一冊。そこそこ分厚いが、文字も大きいし行間も広いのでさらりと読める。内容も談志ファンなら何処かで読み聞きしたものが多い。全体的にモチベーションが低いときに書かれたらしく、いまひとつ爆発力のない一冊だった。

定価なら1500円。お高いなあ、と思っていると、帯に「談志の本買い?よした方がいいよ」(談志)とある。まぁ、そういう一冊なのだ。

変態仮面 アブノーマル・クライシス 福田雄一

『もう!なんなのよ、男って!』(愛子ちゃん)

まさかの変態仮面映画の続編。たぶん監督も2作目があると思っていなかっただろう。

前作の、そして原作のテイストはそのままに、本作はガンガンにハリウッド映画スパイダーマンの2をパロディしていく。大丈夫かと心配になるほどのパロディっぷり。前作より予算もあるようでCGなど(しょぼいけど)も盛りだくさん。

個人的にはすごくツボ。映画ってこれでいいんだよ。深いストーリーやメッセージはトップクラスの一部の作品が担えばいい。作り手も、観客ももっと映画そのものを楽しむべきだ。

この一作は多くの人間が楽しんだ作品だろう。女性はあまり気がすすまないかもしれない。でも、楽しめると僕は思う(デート中でなければ)(デートでは観ねえよ!)。

幽霊塔 江戸川乱歩

幽霊塔

幽霊塔

この世の中に、私ほど奇妙な、恐ろしい経験談を持っているものはあるまい(北川光雄)

江戸川乱歩の冒険小説。財宝とが眠ると噂される怪しい幽霊塔。時計塔には果たしてどんなカラクリが眠っているのか。謎を秘めた女、秋子は何者なのか。謎が謎を呼びまくる。強い意志をもつ主人公光雄は秋子に惹かれ、謎だらけの館に挑むことになるのであった。

江戸川乱歩らしいどろどろした雰囲気は残しつつ、子供にも楽しめる冒険譚。むしろ子供向け小説なので、小学生〜中学生のころに読みたかった。今よりもっとのめり込んで読めただろう。

なんといってもこの一冊には、宮崎駿監督が自身の思い出を漫画にしたものがついている。ルパン3世カリオストロの城の種はこの小説だったらしい。宮崎駿なりの小説の解釈や、映画づくりの姿勢が垣間見得て面白い。またこの幽霊塔はイギリスの小説が原作であるようだ。この辺りを通して宮崎駿なりの価値観も漫画の中に示されている。短い漫画だが本編に負けず劣らずの価値がある。

さよなら私 みうらじゅん

いろいろあるのが人生。
一生わからないのが自分。
これを肝に銘じてください。(著者)

みうらじゅんのエッセイ集。

くだらない話から人生について、あるいはそれらが融合した独特の思想まで、さらりと読みやすい文体で語る。1タイトル2ページというお手軽さ。なんだか悩みとか、頭の中に引っかかっていたものがスッと落ちる。そんな感じの一冊。なんだか余裕がない人はちょっと本書を開いてみてはいかがだろう。

花物語 西尾維新

花物語 (講談社BOX)

花物語 (講談社BOX)

「まぁ若造でも老人でも、人生に悩みは尽きないが、しかしおいしい肉を食えばそんな悩みは全て解決するのさ」(貝木泥舟)

物語シリーズ第8弾。神原駿河の前に現れたかつてのライバル・沼地蝋花。人の不幸話を集める彼女の目的は一体?

サイドストーリー的な一巻。主人公・阿良々木暦は物語にほとんど関係しない。故に語り部は神原駿河にバトンタッチ。面白いのは語り部が変わったことで作品の雰囲気がガラッと変わることだ。人一倍「悩み」に苦しむ神原の1人語りは、太宰治人間失格のような純文学っぽい雰囲気を醸し出している。青春という作品全体のテーマとも相まって、独特の空気を生み出している。

個人的には、ライトノベル特有の(?)妙な軽さが抑えられていて非常に読みやすかった。フツーの小説に近い感じだろうか。

沼地蝋花の悲しさは、なんだか非常に共感できた。現実をよく知っているものこそ、夢や希望を下手に持てず苦しむ。自分が底なし沼に落ちたなら、脱出よりも道連れを探すことの方が面白いのかもしれない。ラストシーン、ふっと消え去った蝋花は一体どうなってしまったのだろうか。

School of rock

難しいことは言わないし、言いたくない。
この映画はロックである。それで十分だろう。

ロックン・ロールに溢れる映画。
ロックを愛するものにも、ロックを軽蔑するものも見て欲しい。どう感じたって、ロックの神様は許してくれるのだから。